毎年,この時期にリハビリテーションを学ぶ若い人達に授業をしています.レポート課題のひとつは,「完治させることが難しい病気になり落ち込んでいる患者さんに,どのような言葉をかけますか」としています. その時に,一番多かったのが,患者さんに「頑張れ」と言ってはいけないという意見です.おそらくそのように教育されているのだと思います.
でも,本当に「頑張れ」って言ってはいけないのでしょうか.「頑張れ」と励まされたとき,なぜ「こんなに頑張っているのに,もうこれ以上頑張れない」と思うのでしょうか.それはきっと「目標設定」が間違っているのです. 「病気が治ること」をゴールにしたら,どんなに頑張ってもそれは報われません.でも,残された人生を豊かにして生きるために,できることはあるはずです.
それは人それぞれだと思いますが,私達は,患者さんのことをきちんと理解して状況を把握して,適切なゴールを設定してあげる必要があります.ゴールが適切であれば,「頑張れ」という言葉は患者さんの励みになるはずです. 目標の達成が難しければ,問題をいくつかに分割して,ひとつひとつ解決していくことが有効です.小さなゴールを積み重ねることで,最終的なゴールへ到達することが可能になります.適切な目標設定がなされているからこそ,頑張ることができるし,「頑張れ」という言葉も励みになります.無理なことならば,途中で投げ出したくなってしまいます.
何人かの学生さんは,「一緒に頑張りましょう」と言うと書いていました.それも良い言葉です. ショックを与えないように「きっと治りますよ」と言うという人もいました.教科書的には,それは不正解でしょうし,そう言ってはいけないと指導されるでしょうけれど,患者さんのことを思って言う言葉はどんな言葉だろうときっと通じると思うので,それはそれで正解のような気がします. 「完治させることが難しい病気になり落ち込んでいる患者さんに,どのような言葉をかけますか」という設問に一生懸命答えるという姿勢が,とても大切なのだと思っています.
「ヒトリシズカ」も一人では咲かない.
野中 道夫